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「湖の男」を読んだ

アーナルデュル・インドリダソン「湖の男」(東京創元社)を読んだ。
エーレンデュル捜査官のシリーズで「湿地」「緑衣の女」「声」に続く作品。

胸のすくような推理小説ではないし派手な立ち回りもない、落ち着いて静かな印象の作品だ。
登場人物の警察官の顔ぶれも同じだが、この作品には影の主人公がいる。アイスランドの労働者の家庭で生まれ育った若者トーマスだ。
トーマスは社会主義にこの世の正義を見出して旧東ドイツのライプツィッヒ大学に留学する。理想に燃えていた彼が、大学内でさえシュタージに支配されて常に誰かに見張られており、密告や裏切りが蔓延していることに気がついて、次第に失望するようになる。それでも本当の社会主義はこんなものではないと考える若者が痛々しい。誰を信じたらいいのか、純朴であることが仇になる社会なのだ。
ハンガリーからの留学生だった恋人は反逆者として拉致され、彼自身も故国に放逐されてしまう。密告者が誰なのか分からないのが不気味だ。

そういう過去の上に事件が起き、さらにずっと後になって偶然被害者の白骨死体が発見されて、エーレンデュル捜査官の出番がくるという筋書きである。

ミステリの範疇を超えてじわじわと心を動かされる作品だった。若くて青臭かったころ、トーマスと同じように社会正義を信じようとしていた世代だったせいかもしれない。

エーレンデュルにはヴァルゲルデュルという女友達がいる。夫の不貞に我慢できなくなって離婚を考えているが、エーレンデュルに判断を仰ぐ気はない。自分のことは自分で決めると言うのだ。自分は自分という潔いまでの自立心は一人の人間としての矜持でもあるのだろう。
人に相談するのが悪いことではないけれども最終的には自分のことは自分で決断するしかない。年をとってくるとつい人を頼りたくなりがちだが、本来の自分を捨ててはいけないと思う。


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中部圏に住む1948年生まれの専業主婦です。
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