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「わたしたちが孤児だったころ」を読んで

 
 もう何年も前のことになるが、イギリス在住の日本人作家が英語で書いた小説が、権威ある文学賞を受賞したというニュースを知って、母国語以外の言語で賞を受けるほどの作品を書くとはすごいと思った記憶がある。カズオ・イシグロという名前はかすかに記憶に残っていて、その作品の「日の名残り」が映画化され、さらにDVDになっているのをたまたまレンタル店で見つけて借りてきた。山あり谷ありといった筋立てではなくて、静謐な感じを受けた。けれどそれはそれだけで、原作を読んでみようという気にもならないままに月日が過ぎてしまった。

 最近市立の図書館へ出かけた。2週間の期限で6冊まで借りられるという規定に合うよう、本を探して書架を回っていた時、この本がそこにあった。若い時と違ってこのごろは本を読むのに集中できない。1時間も読んでいると本を閉じてしまうことが多い。読み終えられるかどうか分厚い本なので迷ったが、裏表紙に印刷された解説文から探偵小説のような印象を受けたのでも試しに借りてみた。

 結果、一気にとはいかなかったが非常に読み易い作品でするすると読むことができた。主人公が子供の頃に行方不明になった両親を救出するために、20年もたってから上海租界に舞い戻るという筋だては確かに奇妙なのだけれど、これは表面は大人びて聡明そうな彼の、子供じみた内面の問題なのだ。作品の最も終盤で彼の母の行方不明に関係した知人の男によって明かされた事実は、事の経過の複雑さを明かしつつ彼の若さを際立たせている。彼の現在の地位も財産も名声も、実は母の犠牲によって憎むべき拉致犯がもたらしたものであったという事実は、彼にとってはいかにも苦々しそうだ。
 面白い映画には最期にどんでん返しがあるという。
 この長編小説にもどんでん返しがあった。
 
 この本を読んでからインターネットで調べたところ、著者のカズオ・イシグロ氏は、日本人といっても5歳の時からイギリス暮らしでもはや英国人だということが分かった。
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中部圏に住む1948年生まれの専業主婦です。
夫と猫2匹と暮らしています。リンクはフリーということでお願いします。

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