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「失われた時のカフェで」  11/26

パトリック・モディアノ「失われた時のカフェで」(平中悠一訳・作品社)の何とも言えない余韻に浸っている。
図書館で借りてきていたのに、長編ではないので後回しにしてしまって、別の本を読むのに時間をとられたため、返却期日間際に急いで読んだ。最初にこの本を読むべきだった。

おそらく原文の雰囲気を大事にして翻訳されているに違いない。独特の、短いセンテンスを連ねた詩のような表現で、論理的なところがなく、感受性に訴えかけてくるところ、独特の世界にはまり込んで酔ってしまいそうだ。この感じは一旦好きになったら、たまらなくなりそうに思われる。

パリの街で短い一生を終えた、通称ルキという若い女性がヒロインである。
セーヌ左岸とか右岸とか聞いたことがある地名が出てくるが、細かな風景描写はない。そのくせ文章全体からパリの感じが伝わってくるから不思議。
ルキは孤独で、所在のなさを抱えている。自分が存在することの意味が分からず、困惑していたのかもしれない。それは誰かに理解される種類のものではなかった。その内面の空洞に呑み込まれるように、男達は心を奪われ、実際に結婚を申し込んで夫になった男もいるし、夫の元から失踪して恋人になった男もいる。謎めいているところが魅力だったということだろうか。ところが彼らはルキにとって自分の存在の意味を解き明かしてくれるものではなかった。
存在の曖昧で不安定な状態は、そうとはっきり気づいていないにしても、誰もが抱えている謎ではないだろうか。誰もが自分の存在の謎を解き明かせない以上、ルキの内面を充足させることなどできない。謎は謎のままにしておくしかないのではないか。

この本の後半にかなりのページを割いて、訳者によって書かれた解題が併録されている。それを読めばこの作品と作家についての理解は深まるかもしれないが、それは後回しにしていいと思う。まずともかく作品を読んで、感性を揺さぶられる経験をするだけでも読む価値がありそうに思う。

1945年7月生まれのフランスの作家で、2014年度のノーベル文学賞を受けている。検索したら、エコール・ド・パリの画家、アメディオ・モディリアーニとは遠縁にあたるのだとか。

ノーベル賞つながりでこの本を選んだ。ガルシア・マルケスの「百年の孤独」も個性的だった。私が読んでいないだけで、現代の世界文学の中にはまだまだ面白い作品があるに違いない。


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中部圏に住む1948年生まれの専業主婦です。
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