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「小説的思考のススメ」を読む  9/19

若い頃は読書といえば物語や小説といった文芸本を読むことだと思っていた。十代から二十代の始めにかけては、世界文学全集に入っているような長編を手当たり次第に読み、次には作家ごとに集中して作品を読みふけった。
ところが年をとるごとに小説や物語を読まなくなり、読むのはかろうじて推理小説だけということになった。時間軸で切り取られた虚構の世界の中で、これまた虚構の人物がどんな感情をもってどう生きようと、現実とは別次元の話は自分とは無関係だとしか思えなくなったのだ。自分が現実の中で生きていることのほうが切実なことだった。

「小説的思考のススメ」(阿部公彦著 東京大学出版会)という本を図書館の書架で見つけた。
この本の「はじめにー小説には読み方がある」という章を読むと、小説を読まなくなったのは私だけではなさそうだ。

人間は長い間嘘と上手につきあってきて、洗練された形で小説という文芸を生み出した。
他方で人間は偽物を嫌う生き物であり、現実の中で正義は嘘を排斥しようとする。ことに現代では、日々「本当の情報」とばかり接しているうちに、虚構との上手な付き合い方ができなくなり、ヴァーチャルなものが批判されやすい下地ができている。小説が読まれなくなったことには、時代の底流にも何か原因があるのかもしれない。

著者はこういう時代にあってもなお、小説とはいいものだと言う。嘘と人間性の濃密な関係がそこにはあるというのだ。
ただし、小説を読むには、読者の側にも作者の側の「小説的思考力」という力に感応し、受け止めることのできる力が必要なのだ。
作者の側の「小説的思考力」を理解できることが、おそらく小説を読む楽しみの大部分のはずだ。

この本の中で様々な小説家の作品がそういう点から丁寧に解説されている。
今は読み方の手ほどきを受けても、いずれ手助けを必要とせずに独力で作家の作品を読み解くことができるようになれば、それはその作家に共鳴し、感応したことになる。そして作家の小説を読むことの醍醐味はそこにあるに違いない。
また小説を読み始めるのもいいかもしれないと思わせてくれた本だ。


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中部圏に住む1948年生まれの専業主婦です。
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