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雑用?

 大学一年生の時、どういういきさつだったのかはっきり記憶がないが、大学祭の実行委員に選ばれた。学科ごと学年ごとのクラスからそれぞれ二人選出という実行委員会からの要請があり、クラスの集まりに出ていた時に実行委員選出が議題になって、当時たまたま一緒に行動することが多かったAさんと私の二人が何となく選ばれてしまったのだ。自分から手を挙げた記憶はない。私もAさんもそれほど積極的な性格ではなかった。誰かが気紛れに私達二人を指名して、それで決まってしまったのだったと思う。その場にいたクラスの全員が、自分以外の誰かがやってくれたらそれでよかったのではないか。大学祭の実行委員などその程度のものだったのかもしれない。
 一年生の実行委員の主な仕事は大学祭協賛の広告取りだった。といっても新規開拓などではなく、引き続き広告を出してもらえる所へお願いに行くというだけのことだったけれど。

 私とAさんは二人組んで繁華街の洋装店へ行くよう指示された。ところが一緒に行くはずだった日、Aさんから「ちょっと都合が悪くて・・」と断られ、締め切りまで日にちがなかったので、仕方なく一人で出かけた。
 実行委員の上級生から、毎年出してもらえるところは版下が残っているはずなのに、うっかりミスで失くしてしまって新しく作った版下の分も余分にお金を出してもらってくるようにと言われ、それだけでも気持ちの重いことだったのに、住所を頼りに出かけた先は高級そうなオーダーメイドの洋装店だった。布地が綺麗に陳列されている店の中で山家育ちそのままの冴えない格好でお金を請求するのは、顔から火が出るほど恥ずかしいことだった。店主の男性は苦笑いしながら、それでも失くした版下のことも何も言わずにお金を出してくれた。
 
 実行委員に広告代を渡した後、なんだかやりきれなくて一緒に行くはずだったAさんの下宿先へ向かった。こうだったのよと、話を聞いて欲しかっただけだったような気がする。
 下宿先へ到着すると、部屋の中からAさんと男子学生が議論か口論をしているような声が聞こえた。当時二人が交際中だったのは皆知っていたから一緒にいたことには驚かなかったが、用事ができて都合が悪いと言ったのはただの口実だったに違いないと、その時感じた。
 Aさんはそもそも大学祭などに興味がなく、実行委員などやる気もなかったに違いない。それは私も同じだった。でもAさんはそれをはっきり口にするのではなく曖昧にごまかして、要するにコンビの一方に役目を押し付けてしまったのだと思った。望んでなったわけではなくても私は責任だけは果たそうとした。

 ちょっとむっとしたので、私はあえて声をかけた。野暮などといわれる筋合いはないと思った。話し声がぴたりと止み、Aさんが驚いた表情で顔を出した。私が立ち寄るなんて思ってもいなかったに違いない。招き入れられるはずがないことは分かっていたから、用が済んだことだけを告げて私は帰った。
 Aさんとはいつか疎遠になって会うこともなくなっていたが、何十年かぶりに電話連絡がついて、それ以来時々電話で話すようになった。彼女は結局、独身のままで転職を繰り返しつつも働いていると言った。長く公団に住んでいるけれど、建て替えで家賃が高くなってと言った。給料から考えると家賃が高すぎると言いつつ、引越しをするという話も出なかった。
 半年に一度くらい私の方から電話をかけて、年賀状のやり取りをする関係が何年も続いた。

 Aさんは六十歳を目前にした年の年賀状で退職したことを知らせてきた。電話で聞いた話では、新しく赴任してきた上司と気まずくなって、言ってみれば肩たたきにあったようなものだという話だった。まあ1年は失業保険もあるし、長いこと働いてきて疲れたから、少しのんびりしてから新しい仕事を探すつもりだと彼女は言った。
 世の中そんなに甘くないよ、と心の中で思った。他人事ながら、高い家賃を心配し引越しをすすめたり、実家へ帰ることをすすめたりしたが、Aさんは動こうとしなかった。仕事もなかなか見つからないままで、高い家賃をどうしているのか、私の経済観念では不思議に思われることだった。
 
 今年の正月は年賀状が来なかった。2・3度電話してみたが、呼び出し音が鳴るだけだった。だからAさんが今どうしているのか私は知らない。
 私は今、あの人はあの人の好きに暮らしたらいいわと思っている。そう思うようになったら、なぜだか突然のように大学時代のあの広告取りの雑用のことを思い出してしまったのだ。考えてみたら、親友ともいえないような絶対的に信頼を置いているわけでもない人間に本当のことなど話すわけがないのだ、と思う。
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中部圏に住む1948年生まれの専業主婦です。
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