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小学校の図画  5/4

私は幼稚園に行っていない。
田舎育ちで、電車の駅まで子どもの足なら歩いて20分以上かかるところに住んでいた。電車に乗って二区先まで行かないと幼稚園がなかった。駅の近くに住んでいた子は通っていたようだが、私のように駅から遠い地区に住んでいた子は誰も行かなかったはずだ。当時は皆がそうだからそれが当たり前だと思っていた。

小学校へ上がる前にひらがなで自分の名前だけは書けるように、親から教わった。歌もおゆうぎも何も知らないままでも、子どもは子ども同士で遊ぶ方に忙しかったから、どうということもなかった。遊びあきて一人になると、買ってもらったクレパスで古新聞を画用紙代わりにして絵を描いた。描きたいものはいっぱいあったような気がする。

おかしなもので誰もいないときに古新聞になら何でも描けるのに、小学校へ上がって最初の図画の時間、真新しい八つ切りの画用紙が配られて、何でも好きな物を描きなさいと言われると、何を描いていいのか分からなかった。
新しい画用紙が貴重なものに思われ、大事に使わなくてはいけないと緊張してしまったのと、描きたいものがありすぎて一つに絞ることができなかったからのような気がする。

ぼんやりしながら隣の席を見ると、画面一杯のチューリップの花が目に入った。隣の席の子はもう花の赤い色をぐいぐいと塗っている。
やっとのことで私はクレパスを手に持った。女の子がなわとびをしているところを小さく小さく描いた。その隣に石蹴りをしている子を何人か描いた。川が流れていて魚が泳いでいて、その両側に花が咲いていて、木が生えていて、道が遠くへ続いていて、雑多なものをとりとめなく描いた。色を塗る時間が足りなくて、線書きしかできなかったが仕方なく提出した。

翌日、先生は皆の絵を一枚ずつ見せながら、名前を呼んで返してくれた。
自分のせせこましい絵を皆の前に掲げられると、それはもう消え入りたい思いだった。おまけに記名を忘れていたので、「これは誰の?」と訊かれてよけいに恥ずかしかった。

最初はそんなこともあったが、その後で描いた絵が展覧会で入選した。朝礼の時、全校生徒の前で表彰状を受け取ることになった。
名前を呼ばれて前へ進み出るまではよかった。けれども何しろまだ一年生だ。経験がないため、どのタイミングで手を出したらいいのかが分からなかったのである。
校長先生がまだ表彰状を読んでいる最中から両手を差し出して待っていたので、後で年上の子にからかわれたのだった。


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中部圏に住む1948年生まれの専業主婦です。
夫と猫2匹と暮らしています。リンクはフリーということでお願いします。

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