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1月28日 再び「パプーシャの黒い瞳」

「パプーシャの黒い瞳」の主人公の生涯がまだ頭に残っている。
パプーシャ(女主人公のあだ名)はそもそも文字を読み書きすることをよしとしないジプシーの生まれだった。子供時代に偶然に木のうろで見つけた紙切れの文字に興味をもったことから、雑貨屋の女主人に頼んで文字を教わる。読み書きができることは、ジプシーの仲間には歓迎されないことだったにもかかわらず。

映画を見ると、古い時代ジプシーは上流階級の舞踏会に呼ばれて楽曲を担当したり、売占したりしていたことがあったらしい。芸能人のようなものだったのだろうか。追放されて流浪生活者になり、定住民と問題を起こすようになっても、上流階級とともにあった過去の思い出は彼らの密かな誇りだったのかもしれない。
野宿のたき火の周りに男たちが集まっているとき、パプーシャの夫が「ナチスはユダヤ人とジプシーがどちらも賢いから恐れているのだ」と言っていた。自分たちの集団を外から見たことがないから、客観的な判断ができない。夫は親子ほど年の違うパプーシャを、物と交換して手に入れた男だ。
第二次大戦中は、ユダヤ人と同様に弾圧されたように描かれていた。確かにあちこちを放浪する彼らは、金銭のためなら戦闘の相手方のスパイにもなりかねず、邪魔で目障りだったはずだ。

ある時、パプーシャの夫は地人に頼まれて秘密警察に追われている男をかくまうことになる。男は詩人で作家だ。彼はジプシーの集団の中でただ一人文字を知っているパプーシャと、次第に心を通い合わせるようになる。
子供を膝枕の上で寝かしつけながらパプーシャが口にしている言葉が、「詩」そのものであることに彼が気づいたことから、二人の間はさらに近くなる。彼女は男に密かな恋心を抱くようになっていた。
時期が来て男は元の社会に戻っていくが、別れ際パプーシャに「詩」を書いて送ってほしいと言う。彼女は「詩」を書いているつもりはまったくなく、ただ自分の生活からわき上がる情動を、言葉を紐帯としてつながり合うことができる、ただ一人の懐かしい男に伝えたかっただけだった。

送られてくるその言葉を詩の形式に翻訳して広く世に紹介しようと、男は高名な詩人を訪れる。詩人と男の間で、それまで実態がほとんど知られてこなかった「ジプシー」に関する本を書いて出版するという相談が成立する。その本とパプーシャの詩を両輪にして売りだそうというのだ。

「ジプシー」に関する本の出版はジプシーの誇りを大いに傷つけるものだった。文字を読めない彼らは本に何が書かれているのかさえ分からない。部外者が自分達の社会を貶め傷つけようとしているのではないかと、彼らは疑い、恐れ、怒った。
パプーシャは一連の成り行きの原因を作った張本人として、集団から疎外され、気が狂ってしまう。
文字など知らず、何も考えず、成り行きに任せて生きていたら幸せだったに違いないと、彼女は思う。彼女は集団の生活しか知らない。そこを離れたらどうやって生きていけばいいのか途方にくれてしまう。
夫がなくなる前後、彼女はジプシーの一員であろうとして、夫の望んだように鶏を盗み、そのために投獄される。

一方で彼女の詩人としての名声は高まり続け、その詩に曲をつけた歌曲の演奏会が開かれることになる。初演の体裁のために当の詩人は出席を求められ、彼女は訳も分からぬまま釈放される。ぼんやりした顔のまま演奏会場に連れてこられて、出席を渋った主人公が、大臣に杖を振り上げて脅される場面。名声を博した女流詩人が尊敬されるどころか、卑民としての扱いしか受けていないのは印象的だった。

虚ろに舞台を見ているパプーシャの前で、歌手は放浪生活の哀感を情感たっぷりに歌い上げる。
彼女の詩は聴衆に真に理解されていたのだろうか。売り出しが成功して評判が高くなったせいで、文化に理解ある大勢の人が集まったのだろうか。どちらにせよ、有名になることなど彼女は望んでいなかった。
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