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1月8日 母の買い物

今は亡き母が買ってくれた袋帯がある。伯母と連れだって呉服の展示会に出かけて、勧められたと言っていた。
具象的な鶏の文様が規則的に並んだ個性的な帯だ。私は当時まだ20代だったので単純に地味だと思っただけで、仕付け糸も取らないまま結婚するときに持ってきた。結婚してからは着物を着る機会がなくて、やっぱり締めたことがないままタンスに眠っている。もう必要ないから知り合いに譲ろうと見せたところ、ちょっとね、という返事だった。その人が迷ったのは、金糸の織り込まれた袋帯であるにもかかわらず、趣味性が強すぎるという理由のようだ。

母はどうしてこんな帯を買ったのだろうと思う。
呉服の展示会など行ったことがないのであくまでも想像だが、ああいう場所は業者にとっては売らんかなの祭りのようなものであって、独特の熱気があるのではないか。その雰囲気に呑まれることなく吟味して選ぶことができる人は、少ないのではないか。冷静に品定めできるのは、さんざん着物道楽をしてきて、あれこれの失敗もし、見る目も肥え自分に似合うものもわかってきて、おいそれと口車に乗せられたりしないような人たちだけだと思う。
母は着道楽でも何でもないふつうの人だった。つまり周囲の熱気にあおられ乗せられてしまう部類だったのである。

呉服屋は呉服屋で、趣味性が強く個性的である故になかなか買い手がつかないその帯が、いくらいいものでも在庫として抱えたくはなかったはずだ。品質はとてもいいものだからこのお値段ならお値打ちですよ、とか何とか相手の表情を読みとりながら勧めたのだろう。
母は母でいい買い物をしようと気張っていたに違いない。そんなにいいものなのに安いのなら、とりあえず買っておこう、どういう着物に取り合わせるかとか、どういう時に締めるとかなんてことは後で考えればいいと思ったのではないか。ただ、後で考える機会が訪れなかったのが問題だった。別の機会に着物を買うときにも同じ事を繰り返していたので、取り合わせに迷う着物と帯がタンスの中に増えることになってしまった、そういうことだったような気がする。

母は保険の外交員として働いていて、自分のお金があったので、時々散財することがあった。
ある時数十万もするミンクのコートを買ってきて、デパートの鏡で見たときにはスマートに見えたのに家で着てみたらまるで熊みたいだから嫌だ、いらないからあんたにあげると言って、くれた。私は安月給の田舎娘だったが、お金持ちのお嬢さんみたいな顔でそれを着て仕事に行った。
そのコートも処分し損ねたまま、今もまだタンスの中にある。


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中部圏に住む1948年生まれの専業主婦です。
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