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ある姉妹

 50年以上も前の話ですが、母の実家の親戚にあたる家で、中学生と小学生の二人の姉妹だけで暮らしている家に行ったことがありました。
 
 私は小学生の頃自分ひとりで電車に乗って、夏休みに川岸で上がる花火を見に行くなど、母の実家へ泊りがけで遊びに行くことがありました。
 小学校の2年生か3年生の時のことです。特別な行事もない日にどうして行くことになったのかは憶えていませんが、その日はたまたま私一人だけで行ったのです。ところが遊び相手になるはずの一つ年上の従兄とその四歳年下の従妹は出かけるところでした。伯母から何か用を言いつかったのか、電車に乗って私の知らない親戚の家へ行くという話でした。一人でいても仕方ないから一緒に行くように言われて、私も二人にくっついて出かけることになりました。
 道すがら、従兄は訪問先のことを(オジさんもオバさんもいない、――ちゃんと――ちゃんだけだ)と教えてくれました。私はその意味が分からず、子供だけで留守番していて寂しいといけないから皆で遊びに行ってあげるのだと思って聞いていました。到着したその家にいたのは私と同年代の女の子と大きいお姉さんの二人でした。
 
 玄関で出迎えてくれた妹さんはにこにこしていました。子供だからお客さんがあったことが嬉しかったのかもしれません。従兄が紹介してくれたので、すぐに私達は同い年だと分かりました。私は人見知りするほうだったのですが、彼女ははにかみながらも話しかけてくれました。感じのいい女の子でした。お姉さんは年が離れていたので一人仲間には加わらず、四人の子供達が屈託なく遊ぶのを眺めていました。。
 ひとしきり遊んだ後、妹さんの方が何かを思いついたように手招きして、私を板張りの洋室に連れて行ってくれました。その部屋の中央には歯医者さんで使う大きな椅子だけがぽつんとありました。彼女は私を椅子に座らせてペダルを精一杯踏み、椅子が高く持ち上がると嬉しそうに笑いました。家の中で一番見せたかったのは、よその家にはないその椅子だったのではないかと思います。その部屋は見回しても他には棚も机も診察器具も何もなく、ガランとしていました。従兄がオジさんもオバさんもいないと言ったことの意味がぼんやりと解りました。お父さんのこともお母さんのことも、彼女は何も言いませんでした。私も聞きませんでした。
 
 お昼はお姉さんが作ってくれました。(お姉さんは母の実家の一番年上の従姉と同じ年と聞いたような気がするので、その時は中学生だったはずです)5人で丸いちゃぶ台を囲んでご飯を食べました。従妹が左利きだったので一人だけ箸を持つ手が違うねと、誰かが楽しそうに言いました。大人がいなかったのではしゃいでも誰にもたしなめられずに、子供心にはそれも楽しいことでした。従兄が子供用のカメラで撮ったのか、お姉さんが撮ってくれたのか、次に母の実家へ行った時皆で丸いちゃぶ台を囲んで撮った写真を見せてもらった記憶があります。
 
 あんまり長居し過ぎたので一番上の従姉が迎えに来て帰ることになり、姉妹が駅まで見送ってくれました。家を出て生垣の角を曲がると、陽に照らされて明るく白っぽかった道が陰に入って急に暗くなりました。妙なことにその情景が頭に残っているのです。私は何となく妹さんの顔を見ました。両親ともにいない家で子供二人だけの暮らしが成り立っていることが、私には不思議でなりませんでした。何か聞いたり話したりしたいことがあるような気がするのに、どう言っていいのか分かりませんでした。
 別れ際駅のホームに立っていた妹さんの顔が、微笑んだ後すうっと無表情に変わりました。その後は姉妹に会うことはありませんでした。
 
 後になって母に尋ねたことがあります。母は一通りの説明はしてくれましたが、どうして女の子二人だけで暮らしていたのかについては明確な答えがないままでした。遠い縁戚の人たちのことなので直接関わっておらず、込み入った事情まで説明できなかったのかもしれません。
 二人の姉妹のお母さんは早くに亡くなられたそうです。歯医者さんだったお父さんは子供のこともあるので再婚されたそうですが、そのお父さんも又亡くなってしまわれました。再婚相手の義理の母にあたる人は、生活の目途もたたないのに子供だけが残されてやっていけないとでも考えたのか、縁を切って家を出て行ってしまい、女の子たちだけがとり残されたのだという話でした。二人がどれだけの期間子供たちだけで暮らしたのかは分かりません。後見する立場の親戚はあったらしいのですが、それにしても心細かったはずです。
 
 時々、あの二人がどのようにして大人になり、今はどうしているのだろうかと思うことがありました。親世代が順に亡くなった後、従兄に聞いたことがありますが、二人の消息について詳しいことは知らないようでした。 
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中部圏に住む1948年生まれの専業主婦です。
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